一人で飲食店に入る。
そんな時、たまたま隣に居合わせた人と話が生まれ、縁ができる。
これまで、僕にはそういうことが、よくある。
先日、出張帰りで佐賀駅に着くともう10時ごろだった。
お腹すいたな〜と行きつけのお店に連絡するも、入れず。
困ったなと歩いていたら、ふと、焼き鳥屋さんの赤提灯が目に入った。
そういえばこの間、ワインバーで隣に座ったおじさんがこの辺りで焼き鳥屋をやっていると言っていた。もしかして・・・と店をのぞいてみると、当たり!
「この間の・・・」と話を切り出すと、大将は、「あー、あの時の!」と言って、店内に招き入れてくれた。
お客は、僕以外は二人で少し離れたところで盛り上がっている。
だから、大将との話になる。
「もともとはI T企業にいまして、システム営業をしていました」と大将。
「え?それでなぜ焼き鳥屋に?」と僕。
「自立して店でもやろうと思っていたら、この場所が見つかりましてね。3ヶ月後に開店しました」
「え?どこかの焼き鳥屋さんで修行されていたのですか?」
「いえ、してません。店を決めて、やることを決めて、開店」
「いや〜、ちょっとそれは逆ではないですか。しかも修行もなく、たった3ヶ月で開店?」
「3,000円のマニュアル本を買って読んだり、あとは動画サイト観たりして、勉強しました」
「え、え、え!」
僕は思わず「それって焼き鳥を舐めてませんか?」と言ってしまった。
大将は微笑みながら「みなさんから、よく言われます」と。
そりゃそうだろう。まったくの素人が、ゼロから始めて、3ヶ月で焼き鳥屋を開業してしまったのだから。
でも、その店は今や開店14年を迎え、佐賀での立派な老舗なのだ。
奥さんと二人三脚で店を切り盛りし、子どもさんも育て上げたという。
たいしたもんだな〜。
焼酎のロックを、やや飲みすぎて、店を辞した。
翌朝、大学への登校途上、僕はまだあれこれと思いをめぐらせていた。
3ヶ月で店を開いたとして、料理メニューの開発から、仕入れ、接客、経理など、ピンチの連続、相当の紆余曲折があったに違いない。
何より、突然仕事を辞めて、いきなり焼き鳥屋を始めた亭主を理解し、協力した奥さんも立派なもんだ。
舐めてませんか、なんて言って悪かったな。
やりたい気持ちを持ち続け、行動に火をつける。
今やる、その今が、3ヶ月でも14年でも、あきらめずに、
ピンチの時にも前を向いて、進んで行きさえすればいいのだ。
そして、あるときふと振り向けば、道ができている。
そんなことなんだろうな。きっと。
I can’t go on. I’ll go on. (もうやってられない。でもやっていくのだ)
最近読んだ本で目にした、アイルランドの作家、サミュエル・ベケットの言葉がなぜか浮かんだ。