こころ疲れて山が海が美しすぎる
放浪の俳人・種子田山頭火が、長崎の川棚で詠んだ句といわれています。
山頭火ほどにはまったく疲れてないけれど、ここ数週間、必要があって高校を訪問する日々でした。佐賀、福岡から、長崎は、長崎市内、諫早、大村、佐世保、島原、五島と、ほとんどが車を運転しての移動でした。
山頭火は、心を病むほどに疲れていて、そんなとき、何気なく目に入ったいつもは見慣れた山も海も美しすぎると思ったのでしょう。
僕は、運転により、腰が痛くて、山が海が美しすぎる かな。なあんて。
それでも、これが大都市で、高校訪問をたくさんこなすとなれば、それこそ心身は疲れまくっただろうなとは思います。電車に乗ったり降りたり、雑踏をかき分けて進んだり、そんなことの連続だったら。
今回は、道中の海や山の景色、文化遺産、それこそ歴史を感じさせる高校の佇まいにも、どれだけ癒やされたかわかりません。ほんとうに九州は素晴らしいなと実感しました。なかでももっとも印象に残っているのは、五島のコバルトブルーの海です。まさにかけがいのない風景だと思いました。佐賀女子短期大学に在学している学生の多くが、そんな自然と文化をふるさととして、育ってきた、ということを改めて認識する機会ともなりました。
ところで、最近、興味深い研究調査結果を目にしました。
東北大学の細田千尋准教授が、「プレジデントオンライン」に発表していたものですが、タイトルは、『「世界38ヵ国40万人の調査で判明」田舎育ちの人の方が都会育ちよりも優れている“ある能力”』です。どんな能力かというと、「ナビゲーションの能力」だというのです。そこには育った環境の地形が影響していて、「不規則で複雑であるほど、その能力は高かった」というのです。海、山、川、森などで子どもたちが遊ぶには「頭の中で、地形などの複雑な立体構造や自分の位置や状況など」自分がいる空間を常に意識しないといけない。他方、「整備され直線的でシンプルな地形を持つ都市で育つとそれほど強い意識をする必要がないのです。
なるほど。
それで考えたのです。これはどうやら、九州からなぜ次々とすごい漫画作品が生まれているのかということへの答えになるのではないかと。「ちはやふる」、「鬼滅の刃」、「SLAM DUNK」、「ONE PIECE」、「進撃の巨人」、「キングダム」などなどなど続々といます、います。
漫画家たちのふるさと・九州の不規則で複雑な地形、しかも美しすぎる風景が、彼らの「空間認識能力」と美意識を育てたのだと思います。
「君の名は」、「すずめの戸締り」など、僕が好きな作品の作者、新海誠は、九州出身ではないですが、長野県出身で、高校時代、小海線の小さな電車の窓から高い山、変わりゆく空の表情、太陽の変化に変容する水田を飽きることなく、見つめていたといいます。
ふるさとの風景は、みなさん一人ひとりの成長に何を与えてくれたでしょうか、新緑の5月に、そんなことを考えてみてはいかがでしょう。